Yahooトピックスより

Winny問題を考える学会ワークショップ


 情報処理学会と情報ネットワーク法学会は6月28日、「Winny事件を契機に情報処理技術の発展と社会的利益について考えるワークショップ」を東京電機大学で開催した。中立的な場で技術・法学分野の専門家に率直な意見を語ってもらい、Winny問題を多角的に考えるのがねらい。“Winnyショック”後に同問題について総合的に議論する初の場となった。

 5月のWinny開発者の逮捕以降、情報処理学会にも多数の反響が寄せられた。学会として声明を出すよう求める声もあったが、「当時の学会内にはさまざまな意見があった上に、全員が全容をつかんでいるわけではなかった」(司会の佐々木良一東京電機大学工学部教授)ために見送ったという。

 プログラムは技術的にP2Pを解説する前半部と、法学的な見地から関連問題を検討する後半部とに分かれる。著作権保護団体にも参加を呼びかけたが、参加を見送るとの返答があったという。


Winnyの暗号化は「金庫に鍵をかけ、金庫の上に鍵を置くのと同じ」

 6月28日に東京電機大学で開催されたWinny事件ワークショップで、東京工科大学の宇田隆哉講師は、Winnyの技術的な特徴を解説。従来の「ノード間の通信は暗号化されている」「送受信の際に保存されるキャッシュファイルの中身は解析できない」とする見方に疑問を突き付けた。

 Winnyパケットが解析可能だとはネットエージェントが既に指摘しているが、宇田氏はその詳細まで説明。バージョン2b66を分析したところ、転送されるデータの最初の2バイトは乱数で、次の4バイトが暗号化用の共通鍵と判明したという。暗号化データとその鍵が同時に送信されるわけだ。

 「セキュリティ研究者にとってはありえない方法。金庫に鍵をかけて、金庫の上に鍵を置くのと同じ」(宇田講師)。

 また、キャッシュも単独では解析不能だが、ハッシュ関数を使った暗号化には「元ファイルのファイル名やサイズの情報が使われていると思われる」ため、解析可能だと指摘した。


「著作権が技術の将来を決めていいのか?」

 「ベータマックス訴訟で、ビデオデッキが違法という判決が出ていたらどうなっていたか」――6月28日、東京電機大学で行われたWinny事件を考えるワークショップで岡村久道弁護士は、Winny開発者逮捕がP2P技術の進展を妨げる可能性を指摘した。

 ベータマックス訴訟では、ハリウッドの映画会社がソニーを相手取って「ビデオデッキは著作権侵害に加担している」として訴えた。ソニー側が1984年に逆転勝訴し、著作権と新技術、私的複製とフェアユースをめぐる分水嶺となった。「違法判決が出ていれば、ビデオデッキはなくなっていただろうし、DVDレコーダーも開発されたかったかもしれない」(岡村弁護士)。

 ただ、P2P技術が著作権法違反に悪用可能なことは事実だ。岡村弁護士は「違法にも合法にも使える技術に白黒つけるのは難しい」と、P2Pファイル交換ソフト「Aimster」が音楽ファイルなどの著作権を侵害したとして訴えられた裁判を紹介した。

 同裁判で米控訴裁は、「セクシーなドレスの商人は、彼の顧客の何人かがそれを着て売春していることを知っているが、有罪ではない。しかし、マッサージができるが、客にセックスだけを売ってマッサージを行わない女性を雇っているマッサージ店のオーナーは、売春のほう助者および教唆者だ」という例を示し、合法・非合法両方に使えるものは、その影響の大きさを測った上で判定する必要があるとの見解を示している。

 さらに岡村弁護士は、「新しい技術は、先人の業績の上に乗って伸びるもの。著作権という小さな枠組みだけで技術を規制していいのだろうかと疑問だ」とし、著作権保護の観点だけから技術の進展を阻害するの乱暴だとの見解を示した。

■日本の司法はサービス提供者を正犯に仕立て上げる

 岡村弁護士はまた、アメリカのP2Pファイル交換ソフト「Napster」に関する訴訟と、日本の「ファイルローグ」への差し止め命令とを比較し、日本の司法の強引さを批判した。「Napster裁判では、Napsterはユーザーの著作権法違反の共犯・ほう助犯として扱われたが、ファイルローグ事件では、サービス提供会社自体を無理矢理正犯にした。日本の司法は、実際に著作権侵害したユーザーではなく、サービス提供者側を“ヤクザの親玉”と見て処罰の対象にする傾向がある」(岡村弁護士)。

 Winny事件では、交換されるファイルの内容をサービス提供者側で管理可能だったかどうかの視点が抜け落ちているとも指摘。P2Pファイル交換ソフトが著作権法違反で訴えられた「Grokster・Morpheus事件」では、交換されるファイルの内容が管理者側でコントロールできないため、サービス提供者に管理責任はないとの判決が出た。これを受けて全米レコード協会(RIAA)は、管理者やソフト開発者側ではなく、ユーザーを大量提訴する作戦に方向転換している。


Winny事件はソフト開発者を萎縮させる?

 Winny事件はソフト開発者を萎縮させることにならないか――。東京電機大学で6月28日に開かれたWinny事件を考えるワークショップ。パネル討論会で、司会役の佐々木良一・東京電機大学工学部教授はそう懸念する。

 「ある研究者は、Winny環境下のトラフィックを解析した論文の査読も、処罰の対象にならないかと心配している」と例を挙げ、警察が思っていた以上に開発者の行動を縛るのではないかと予想する。

 佐々木教授は、今回の事件が国際的な競争力に悪影響を及ぼす可能性もあると考える。「日本のソフト輸出額は、輸入額より2けた少ない。国内ソフト産業がさらに縮小する恐れがあるのではないか」。Winny開発者弁護団の壇俊光弁護士も「法的問題を心配して弁護士などに相談するようになると、ソフト開発は遅れてしまうだろう」と見る。

 日本IBMの丸山宏氏によると、国内ソフト産業は海外への業務移管が進み、下請けが多層化して末端開発者が低賃金で働かされるなどの問題が出てきている。Winnyはソフトウェアとしては優れているとし、「Winnyに限らず、SoftEtherのようなソフトがどんどん出てきて日本のソフト産業を盛り上げてほしい」と話す。

 イージス法律事務所の落合洋司弁護士は、まずどこからどこまでがほう助罪に当たるのか、線引きを明確にする必要があると指摘した。

 「ほう助罪の成立条件はゆるく、『犯罪を助けているかもしれない』という程度の認識でも成立する。アップロードしたユーザーを正犯、開発者をほう助者と捉えるなら、ネットワークでファイル中継にかかわったユーザーもほう助者になる」。佐々木教授も「線が引かれず、無条件に後ろに下がるようではよろしくない」と懸念する。


「Winnyの否定は、IT立国自体の否定」

 「Winny開発者逮捕は、国策であるP2P技術の進歩を止めてしまい、経済・産業分野にまで悪影響が出る」――東京電機大学で6月28日に行われたWinny事件を考えるワークショップで、Winny弁護団事務局長・壇俊光弁護士はこう主張した。

 2004年度のIT政策大綱で総務省は、公共分野でのP2P技術活用を掲げている。全国に散在するデータを簡単に検索・利用するためにP2Pを活用するというものだが、現在のP2P技術はセキュリティ・品質面で問題があるとしている。

 この問題をクリアできるのがWinnyだと壇弁護士は言う。Winnyならプライバシーを守りながら効率の高いファイル交換が可能だからだ。「Winny開発の否定は、IT立国自体の否定だ」。

 「海外では同種のP2Pファイル交換システムが適法とされており、開発競争が始まりつつある。Winnyを否定すれば、国際P2P競争で敗北は必至。経済的損失は計り知れない」。

 さらに、Winnyの否定はインターネット自体の否定につながると壇弁護士は主張する。「ネットでの情報伝達はコピーによって成り立っている上、違法ファイル発信を防ぐ手段はない。Winny問題の本質は、ネットが法律の概念を超えたことにあり、立法で対応すべきだ」。

■「ほう助」の定義があいまい

 著作権法では、公衆に自動複製装置を提供した場合、営利性がなければ不可罰、営利性があれば可罰となる。Winnyを自動複製装置とみなした場合、開発者は何の利益も受けていないとされるため、不可罰で当然のように思われる。

 しかし、公衆送信可能化権(著作物を自動的に公衆に送信し得る状態に置く権利)に限っては不可罰規定がないため、同権侵害をほう助したWinny開発者も可罰になってしまうという。「営利性がなくても罪になるのは著作権法の規定に反しているのではないか」。

 著作権法違反の罰則規定も矛盾していると主張する。著作権法違反ほう助罪は、3年以下の懲役か300万円以下の罰金。コピーガードキャンセラーなど、技術的保護手段を回避する装置を提供した場合の罰則(1年以下の懲役か、100万円以下の罰金)よりも重い。「違法・合法両方に使えるソフトを、違法利用しかできないソフトよりも重い刑に処するというのはおかしいのではないか」。

 加えて、「ほう助」の定義があいまいなのも問題だと指摘する。「あらゆる技術は悪用の危険がある。正犯との面識がなく、実行行為がわからない状況でのWinnyの提供がほう助となるなら、例えば、制限速度以上で走れる車を販売している自動車メーカーなど、処罰範囲は無限に広がる。どこまでがよくてどこまでがダメかというガイドラインを作らないと、誰もP2Pソフトを開発できなくなる」。

■Winnyは産業革命をもたらす?

 Winny開発者の逮捕は、インターネットから生まれた新しい可能性を封じ込めると壇弁護士は言う。

 「Winnyが課金システムを装備すれば、産業革命をもたらす可能性すら秘めている。大容量データをサーバ不要で配信できるWinnyなら、サーバを立てる余裕のない個人でも、自主制作映画や自作の音楽などを流通させられる。加えて、ユーザーと発信者が直接ファイルをやりとりできるため、流通業者への中間マージンが不要になる」。今回の事件が、ファイル交換による新しい市場の可能性をも否定する危うさを指摘した。


ファイル交換ソフト経験者は約240万6,000人 - ACCSが調査結果を発表

コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は28日、日本レコード協会(RIAJ)とともに行ったファイル交換ソフト利用実態調査の結果を発表した。調査は2004年4月7日〜13日に実施。インターネットユーザーを対象として、Web上に設置されたアンケートサイトから、合計2万3,707人分の回答を得た。調査項目は利用経験、使用ソフト、ダウンロードしたファイル、共有したファイルなど。結果はACCSのWebサイトで公表されている。

調査によると、ファイル交換ソフトを現在利用している人は回答者の2.8%、過去に利用したことがある人は4.3%。インターネット利用者数の総計から推定すると、現在利用中のユーザーは約94万9,000人、過去に利用経験のあるユーザーは145万7,000人、合計約240万6,000人のユーザーがファイル交換ソフトの利用経験があると予測している。これは、2003年1月に行われた同様の調査時における現在利用者から約3万7,000人(3.8%)減っており、ユーザー数はやや減少傾向にあるという結果だ。

回答者の男女比は、男性1万1,816人、女性1万1,891人とほぼ同数のサンプルを得ており、利用実態を見ると、女性よりも男性のほうが利用率が高く、若年層ほど高い。女性は音楽関連ファイルを多くダウンロードしているのに対し、男性は映像関連ファイルのダウンロード比率が高く、潜在的な目的の違いが浮き彫りとなっている。

また、やりとりされているファイルのうち、著作権などの権利の対象となるものは音楽ファイルで92%、映像ファイルで94%と依然高く、違法なファイルが共有されている実態を示している。

ソフトウェアのシェアは「WinMX」の利用経験者が71.9%と首位をキープ。続いて「Winny」が50.6%、「Gnutella」5.1%、「KaZaa」4.5%、「Freenet」4.5%など。2003年の調査では「Winny」を利用したことがあるユーザーの比率は22.8%であり、この1年でシェアを伸ばしたのがわかる。

結果についてACCSは「昨年11月のユーザー逮捕や、調査の約1カ月前にWinnyを介して広まったAntinnyウイルスが抑止力となり、ユーザー数がやや減少したとみられるが、全体を見ると現在でも100万人近いユーザーがファイル交換ソフトを利用している。ライトユーザーと思われる回答も目立ち、まだ将来の動向はなんとも言えない。今後も違法なファイル交換に対する啓発活動を続けていく」とコメントしている。

なお今回の調査は、実施時期の関係から、5月10日のWinny開発者逮捕による影響は考慮されていない。


Winny/著作権の保護は悩ましい  神戸新聞より


2004/05/13

 インターネットを通じ、ソフトやデータなどが簡単にやりとりできるファイル共有ソフト「Winny」(ウィニー)を開発した東大助手が京都府警に逮捕された。  府警は昨年十一月、ウィニーを使って、映画やゲームソフトが著作権者に無断で複製できるよう発信していた群馬県の自営業者と愛媛県の少年を全国で初めて摘発しているが、そうした著作権法違反の行為を手助けしたというのが逮捕の容疑である。  ファイル共有ソフトは本来、単なる道具である。著作権が問題にならない場面で適切に使われる限り、ネット時代の大変便利なツールであることは間違いない。  にもかかわらず、ソフト開発者が逮捕されたのは、極めて異例のことである。府警としては、デジタルコンテンツの著作権を保護する観点に照らして、今回のケースはあまりに悪質と判断したものだろう。  ウィニーは、従来のファイル共有ソフトと違い、仲介サーバーを必要とせず、見知らぬ同士のパソコンが直接やりとりできるのが特徴だ。しかも、ファイルが複雑に暗号化されるため、匿名性が高い。  東大助手は、これを自らのホームページで無料公開していた。使い勝手が評判を呼び、利用者は瞬く間に増えたが、それにつれてネット上の著作権侵害が横行、「違法コピーの温床」となっていたとされる。  とくに、助手は開発着手の前にネットで「摘発しにくいソフトをつくる」と宣言、完成後も利用者の声に応じて約二年間に二百三十六回も改良を加えていた。  取り調べにも「コピーが簡単にできるネット社会が放置されているのは疑問。変えるには著作権法違反状態をまん延させるしかないと考えた」と供述しており、府警はこの助手が違法に使われる可能性を十分に認識していた、とみている。  映画やゲームの関係者にとって「わが意を得たり」の逮捕かもしれない。だが、違法行為の直接当事者でないソフト開発者の責任を安易に問うことには異論もある。  今回の件について、法律専門家には「ほう助の成立には確定的な故意が必要」との見方が多い。漠然とした故意だけで十分とすれば、パソコンメーカーも通信会社もすべて共犯となってしまうからだ。  ファイル共有ソフトをめぐるトラブルは、欧米でも増えているが、ソフトはビデオデッキと同じ、開発者に違法コピーの責任はないとの司法判断が主流だという。  デジタル化の進展で増え続ける著作権侵害をどう防ぐか。一罰百戒もいいが、権利尊重の素地づくりをまず急ぐべきだ。